2016年9月、クリーチャーズのLINEスタンプ「猫も登場!イマクニ?スタンプ」を発売した。
これは、同年10月に発売20周年を迎えた「ポケモンカードゲーム」のPR企画の一環として、1997年に「ポケモン言えるかな?」で一世を風靡した『イマクニ?』も、盛り上げに一役買おうという意図で制作されたものである。
発案者は、最近なりゆきでイマクニ?のマネージャー的ポジションが固まりつつある、岡本こうた。
大ブレイクから20年近く経った今、ふたたびイマクニ?の商品価値を見つめ直すこの企画。はたして、どのような作品ができあがったのだろうか。
前編では、発案からプロジェクトの立ち上げ、制作工程をご紹介しよう。
岡本こうた
「ポケモンカードゲーム」を制作している「開発1部」所属。部のマネージャーとして人材・予算管理、プロジェクト管理等を行うのが本業。うっかり者でおおざっぱなイマクニ?のタレント活動を放っておくことができず、スケジュール管理や外部との折衝、収録への同行などマネージメント全般を厚意で請け負っているうちに、イマクニ?のマネージャーというポジションが定着してしまった。
しっかり者だが甘え上手な末っ子気質でもあるので、上司ウケが良い。
イマクニ?
1997年、「めざせポケモンマスター」のカップリング曲として収録された『ポケモン言えるかな?』が大ブームに。当時すでにクリーチャーズ社員であったイマクニ?は、20年たった現在までタレント業と会社員の仕事を細々と両立してきた。天才肌で、商品企画では数々の斬新なアイデアを生み出し、カード開発には欠かせない存在になっている。タレント活動時と会社内での言動がまったく変わらず、とにかく面白いお兄さんとして社員みんなから慕われている。
2016年6月28日
〜発案〜
この頃クリーチャーズや関係各所は、10月20日のポケモンカードゲーム発売20年記念日を間近に控え、プロモーション企画やイベント開催の準備であわただしかった。
そんななか、ポケモンカードゲーム企画・開発を手がける「開発1部」のマネージャーである岡本は考えた。
岡本:20thプロモーションではイマクニ?が出演する企画がいくつかあるし、クリーチャーズでもイマクニ?を盛り上げたいな。
でも、イマクニ?のスケジュールはすでにパツパツだから本人は使えないし……。少ないリソースでできることといったら……。
LINEスタンプならサクっとつくれるかな。
この時点で岡本は過去の経験から、スタンプ作成にかかるコストや、いかに売れないかということは承知していた(※1)。儲けるためではなく、単に面白そうだからつくりたいのである。
予算の承認を得るため、さっそく開発1部のボスである北野の元へ。
岡本:カード20周年のプロモーションにクリーチャーズとして協力するために、イマクニ?のLINEスタンプつくりたいんですけど
北野:え~、いいじゃん欲しい! 俺、イマクニ?スタンプ使いたい(はあと
イマクニ?を愛してやまない北野は快諾。しかし、そこはボスである。ビジネスのことはおろそかにしない。
北野:でもウチでLINEスタンプつくったって、全然売れないよね?
岡本:全然売れませんね。SNS動画であんなにバズった『aDanza』(※2)のスタンプも、さっぱりですね
北野:でもまあ、使ってくれている人が少しでもいたんなら、いいんじゃない? つくろうよ
おおざっぱなのもまたボスである。
岡本:わかりました。では進めます(イマクニ?に甘いんだなあ)
岡本は、部内の少数精鋭チームによる短期集中で完成させ、ポケモンカードゲーム20周年企画商品が発売される9月16日の同時リリースを目指すことにした。
岡本:善は急げ。さっそくプロジェクトチームをつくって企画会議だ!
(※1)クリーチャーズでは過去に1つだけLINEスタンプをリリースしている。ミュージックプレイヤーアプリ『aDanza』のスタンプだ(2015年7月31日より販売開始)。『aDanza』は、とあるユーザーがTwitterに投稿した“英語のリスニングに合わせて踊るアルパカ”の動画が中高生を中心に話題になり、アプリダウンロード数も120万を超えた。スタンプの分配額合計は、販売開始から2016年12月までの17か月で11557円、件数にすると約275件となる。
2016年6月29日
〜メンバー選抜〜
開発1部には、芸大・美大出身者が多く、イラストを描ける人材が豊富である。それをグラフィックデザインチームで使いやすいデザインに整えてもらうこともできる。
しかしまずは、スタンプとしておもしろいネタを出すことが最優先だ。岡本が選抜したネタ出し部隊は、以下のメンバーである。
■野元
通常業務はポケモンカードゲーム海外版制作の管理、国内イベントの進捗管理等。高い知力とコミュ力の奥に秘めた得体の知れない狂気が、周囲を魅了する。社内では特に大人女子()からの人気が高い。
■大塚
通常業務は制作管理アシスタント。人懐こく、誰からも可愛がられるムードーメーカー。無類のピカチュウマニアで、大量のピカチュウグッズが収まりきらなくなった末に自宅を引っ越した。
■長島
ポケモンカードゲームのディレクターだが、わんぱくで破天荒なのでネタ出し要員にうってつけ。多忙なディレクターも、戯れであらゆるプロジェクトに参加できてしまうのがクリーチャーズのスタイルだ。
■イマクニ?
もちろん本人も参加。自分のことは自分で。
岡本はその日のうちにメンバーを招集し、プロジェクトのスタートアップを行った。
「じゃあ、体毛が舞い散るアニメスタンプにしようよ」
「舌滑悪すぎて何言ってるかわからないボイス入りスタンプはどうです? イマクニ?さんらしさが出ますよね」
「拾い食い禁止!ってのは必要ですよね」(事実、イマクニ?はよく拾い食いをしてしまう)
「とりあえず、これまでイマクニ?がやらかした事件リストつくろっか」
開発1部のメンバーは、イマクニ?いじりのネタには事欠かない。
岡本:ちゃんと日常的に使えるものを織り交ぜつつ、まずは自分が心からおもしろいと思えるものを考えてくださいね。1週間後にコンペやりますから。ちなみに動くスタンプはリソース的に厳しいですから、普通ので!
商品として、LINEスタンプとしての使いやすさを忘れてはいけない。岡本は予算を握る者として、「あわよくば大ヒット」の希望を捨ててはいないのだ。
いっぽうメンバーは題材が大好きなイマクニ?とあって、やる気に満ちている。一同はさっそくネタづくりにとりかかるべく、引き上げていった。
2016年7月6日
〜スタンプ案コンペ第1回〜
集まったネタの一部を見てみよう。
趣向を凝らしたネタが集まってきたが、まだまだ足りない。厳選したうえで40種を揃えるには、バリエーションも数ももっと必要だ。しかし、方向性は見えてきた。
ここからは、Googleドライブ上にメンバーが新案や別案を描いていくやり方にした。各メンバーが空いた時間にどんどんネタを追加していく。その中から面白いものをピックアップしたものを「素案」とした。

共有シートにまとめた素案
ここからは、完成にむけてイマクニ?がほぼ1人でまとめていく。素案で伝わりにくかったイラストは描き直し、言葉だけでイラストがないネタはイラストを描いていく。メンバーが描いたイラストが面白ければ、そのまま採用した。悩み、工夫をしながらなんとか40個にまとめた「ラフ」ができた。なんとなく仕上がりが見えてきた。

みんなのアイデアを集約したラフ
2016年7月28日
〜苦難のネタ出しは続く〜
ある程度まとまったが、ここから最終バージョンまでのブラッシュアップが難しい。そう思っていたときに、北野からディレクションが入る。
北野:石原さんと増田さんとウチの社長もこっそり登場させようよ(※2)
イマクニ?:えっ
さらに社長が現れた。
社長:オレらしか使わんようなものがあったらええやん
イマクニ?の生の人間性をもっと出さんと
カード20周年やし、ど真ん中世代の20代後半しかわからんネタが必要やろ
『がんばれ』が足らんのちゃう?
一段落着いたような気持ちでいたのだが、上司から言われたらやらないわけにはいかない。要望を取り入れつつ、イマクニ?スタンプとして面白いものを、考え直さなければならない。イマクニ?とメンバーたちは再び、ブレストと案出しを繰り返した。
(※2)
ポケモン総合プロデューサーでありクリーチャーズの代表取締役会長でもある石原恒和氏、株式会社ゲームフリーク取締役開発部長の増田順一氏、株式会社クリーチャーズ代表取締役社長の田中宏和である。
これらの要望を取り入れたスタンプは以下の通りである。
石原さんと増田さんとウチの社長
「わかるわかる」「おめでとう!!」「BEST FRIEND FOREVER」に登場
→知り合いが見れば、わかるのだろうか??
オレらしか使わんようなもの
「ジャッジーッ」
→ポケモンカードゲームの公式大会で、プレイの判断に悩んだ時にジャッジを呼ぶという場面。ポケモンカードゲームプレイヤーにはおなじみの光景だが、それ以外の人にはピンとこないであろうスタンプ。
イマクニ?の生の人間性
「さらけだせ!」
→これは約18年前に、昭和の大スターの数々のプロマイド撮影をしてきたことで有名な「マルベル堂」で撮った、イマクニ?の本気のプロマイドだ。実写を使い、社長からの要望をストレートに実現している。
カード20周年に合わせて、20代後半しかわからんネタ
「だーれだ?」
→テレビアニメ「ポケットモンスター」のアイキャッチへのオマージュ。
「交換しましょ」
→1998年に人気を博したポケモンカードゲームのイメージソング「とりかえっこプリーズ」からイメージしたもの。
「爆誕!」
→1999年公開の『劇場版ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕』へのオマージュ。
「がんばれ」が足らんのちゃう?
「がんばれ」
→イマクニ?はがんばらないので、がんばらずにがんばれを伝えるのが難しかった。
2016年8月30日
〜決定! 選ばれし40個のスタンプたち〜
苦労の末に完成した40個のスタンプがこちら。


よく見ると、同意を示すスタンプだけで5種もある。これは、イマクニ?が最初から「なるほど」系は使えると確信しており、こだわって残した結果である。ほかに、アイデア出しでチラシの裏に一発描きしたイラストをそのままスキャンしたために画質が粗いものや、使いどころのわからないものなどもある。一見雑に思えるかもしれないが、これこそが「イマクニ?ぽさ」を最大限に表現した結果なのだ。
ネタ選びだけでなく作画の方向性も、最終的な判断はイマクニ?自らが行った。イマクニ?の感性がいかんなく反映された仕上がりになっている。
リリース後の反響は、後編へ続く。