はじめまして。ポケモンカードゲームのゲームデザインを担当している高野と申します。
8月にアメリカ・アナハイムで開催された「ポケモンワールドチャンピオンシップス2017」(以下、ポケモンWCS2017)の視察に行ってまいりました。この記事では、ゲームデザイナーの視点から世界トップクラスのカード環境についてお話をさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
「ポケモンワールドチャンピオンシップス2017」公式サイト(日本公式サイト)

2017 Pokémon World Championships

ポケモンWCS2017 マスターディビジョン決勝進出者インタビュー

日本との違いと人気のデッキ
まず目についた日本との大きな違いは炎デッキの少なさでした。日本では人気の高い炎デッキに必須とも言えるサポートの鍛冶屋は、海外での2016-2017シーズンで使えないカードに設定されたため(※編注)、炎デッキを使う人が減り、その影響から草デッキが日本より多く使用されていました。それ以外は日本の環境と大きな差はなく、強力な特性や補助カードが多いサーナイトGXデッキが非常に人気でした。炎デッキが少ない環境なので、鋼デッキの増加を懸念したユーザーがサーナイトGXの使用を避けるかなと個人的には予想していましたが、依然人気だったのは意外でした。
環境全体を見渡すと、強力な特性を持つポケモンを軸に構築されたデッキと、それらに広く対抗できる特性「ダストオキシン」を持ったダストダスを使ったデッキも多く見受けられました。

炎デッキに欠かせない鍛冶屋。ポケモン海外の2016-2017シーズンではレギュレーション外に。

特性を封じる「ダストオキシン」で人気のダストダス。
(※編注)
ポケモンカードゲームでは、各国ごとに商品の発売時期が違う等の理由から、日本国内と海外で大会レギュレーションが異なる場合があります。ポケモンWCS2017本戦では、「ガイアボルケーノ」「タイダルストーム」~「闘う虹を見たか」「光を喰らう闇」が使用可能カードとなっていました。
人気のデッキをくわしく解説
それでは、実際によく使われていたデッキ、活躍していたデッキをご紹介します。
海外では拡張パック「闘う虹を見たか」「光を喰らう闇」が発売して間もないのですが、これらの拡張パックのカードをしっかり研究したうえで構築されたデッキが多く使われていました。こういうところでも世界大会のレベルの高さを感じます。
【サーナイトGXデッキ】
日本の環境でも強くて人気のあるデッキです。このデッキはエルレイドの特性が、オクタンの特性とうまくかみ合うことで、手札のエネルギーをどんどん場に出すことができるのが強みとなっています。
先にも書いた通りレギュレーション的に炎デッキが少ないポケモンWCS2017の環境では、鋼デッキに押されてしまうかと思っていました。しかし予想に反して鋼デッキの使用率は低く、サーナイトGXデッキはその強さを遺憾なく発揮していました。
【ジュナイパーGXデッキ】
ジュナイパーGXデッキは草デッキのなかでも攻撃的な特性を使う点が特徴で、国内でも海外でも人気があります。このデッキには大きく分けて2種類あります。
ひとつは、アローラロコンのワザ「みちしるべ」でポケモンを確実に場に出しつつ、「巨大植物の森」を使って、メインアタッカーであるジュナイパーGXを一気に進化させるストレートなデッキです。もうひとつは、そこにグッズの使用を封じる特性を持つラフレシアを入れて、相手の妨害も狙っていくデッキです。
ラフレシアを組み合わせるデッキは、相手の動きを止められるのでとても強力ですが、自身自身の動きも封じられてしまう不安定さも残ります。そのため今回のように対戦回数が多く、連勝をし続ける必要がある大会形式では勝ちきることができていなかったような印象を受けました。
ただ、炎デッキが少ない環境だったので、ジュナイパーGXデッキの使用率が高いのは理にかなっていました。レギュレーションをしっかりと把握したうえで環境を予想しているユーザーが非常に多いのも、トッププレイヤーが集う世界大会の特徴です。
【グソクムシャGXデッキ】

機動性の高い1進化デッキ。サポートを使いこなすのがポイント。
少ないエネルギーで高いダメージを出せることから、エネルギーが多いほどダメージが上がるサーナイトGXに対して有利なデッキです。こちらもデッキの内容は大きく2種類あり、ひとつはブースターやサンダースの特性でグソクムシャGXを含む1進化ポケモンのタイプを増やし、弱点を突きやすくするデッキ。もうひとつは、ダストダスでおたがいの特性を無効化しつつ、育てやすいグソクムシャGXでいち早く攻撃をしかけるというデッキです。
グソクムシャGXが持つワザの効果を最大限に生かすためにグズマやアセロラを何度も使う必要があるので、今回の大会のように連続で戦わなければならない場合は思い通りにコンボが決まらないこともあります。しかし、さすがトッププレイヤーはプレイングが上手く、しっかり勝ち進んでいました。
【ジジーロンGX(エーフィGX) / ダストダスデッキ】

必要なエネルギーの少ないワザを持つたねポケモンや1進化ポケモンで、育てやすい。
こちらもダストダスで相手の特性を封じて、確実に攻撃していくデッキです。環境の大半のデッキが特性を持つポケモンをアタッカーとして使っており、ジジーロンGXの天敵である闘ポケモンがほとんどいなかったので、使用率が高くなっていたようです。
【ゲッコウガBREAKデッキ】

「ポケモンWCS2016」でも人気だったゲッコウガBREAK。

特性「ひかりをのみこむ」を持つギラティナが天敵。今大会では少なかった。
ゲッコウガBREAKは、BREAK進化前のゲッコウガのワザ「かげぬい」で相手の特性を封じつつ、自身は特性でダメージを与えることができます。今回のように強力な特性の使用を前提にしたデッキが多い環境だと、それらの特性を封じられるのはとても大きなアドバンテージとなります。
国内でオーロットBREAK対策として使われていた、BREAK進化ポケモンの特性を無効化できるギラティナが、このデッキにとっての天敵でした。しかし、今回の環境ではギラティナの使用率が下がり、相性の悪いデッキが減ったことで国内大会よりもゲッコウガBREAKデッキを使う人が多くなっていた印象がありました。
大会環境としてはタイプ相性の悪い草タイプデッキが多かったのですが、少ないエネルギーで戦うデッキであり、サーナイトGX相手に有利なので採用されていたようです。一応、先に挙げたジュナイパーGXデッキが相手であっても、改造ハンマーやジラーチなどを使ってジュナイパーGXにワザを使わせず、ワザ「かげぬい」で特性を止めるなどして、不利ながら戦えているようでした。
【メガレックウザEXデッキ】

ワザ「エメラルドブレイク」とスカイフィールドで最高240ダメージをたたき出す。ほかにも、ワザも特性も強力なたねポケモンをそろえて常に攻撃し続けることができる。

相手の特性「みちをふさぐ」がはたらくと、「エメラルドブレイク」の最高ダメージが120まで下がってしまう。

アローラキュウコンGX(HP210)やサーナイトGX(HP230)の鋼弱点を突いて一撃でたおせるワザ「ソウルブラスター」。
メガレックウザEXデッキは、スカイフィールドと組み合わせて「エメラルドブレイク」のダメージを240まで上げつつ、シェイミEXやカプ・テテフGXなど、強力な特性を持つたねポケモンを多く入れるデッキです。アタッカーがすぐに育つうえ、特性で手札を増やしたりポケモンを引くことができるため、どんな局面でも抜群の安定感で戦い続けられます。今回の環境には250以上のHPを持ったポケモンが少ないため、相手がウソッキーを使っていない限りほぼすべてのポケモンを一撃でたおせることができました。
鋼タイプが弱点のアローラキュウコンGXやサーナイトGXを一撃でたおせるワザを持ち、優秀な特性も持っているマギアナEXをサブアタッカーとして採用するデッキが多く使用されていました。
決勝戦を戦ったデッキたち
ジュニア
サーナイトGX 対 サーナイトGX(+オクタン)
オクタンを入れていないサーナイトGXデッキは、色々なデッキに対応するためのカードを入れていた分、オクタンを採用していたサーナイトGXデッキよりもわずかにデッキパワーが劣っていたように見えました。結果的にはやはりオクタンが入っているデッキが勝っていましたが、1勝1敗までもつれこんでいて、最後までどちらが勝ってもおかしくない名勝負になっていました。
オクタンが入っていることでNを使われたときのリスクを回避できていたのが大きかったように思います。また、ふしぎなアメをしっかり入れていたことで、相手より早く、かつ多く進化する機会が生まれていました。純粋にポケモンを育てるカードを多く入れていたことが勝利につながったのだと思います。
シニア
ゲッコウガBREAK 対 アローラキュウコンGX
アローラキュウコンGXのデッキにはギラティナが入っており、先にも書いたようなゲッコウガBREAKの対策がしっかりとできていたため、アローラキュウコン側が有利な展開が多かったです。ギラティナが入っていなければゲッコウガBREAK側が有利な展開に持っていきやすいマッチアップですが、ギラティナ1枚で有利不利がひっくり返っており、しっかり相手のデッキの動きを封じていたので、環境を読み切ったことが勝敗を分けました。
おしくも敗れてしまったゲッコウガBREAKデッキですが、後半に相手の山札切れを狙ってワザ「あわ」を使い、コインのオモテが出た瞬間会場がとても盛り上がっていました。そういった最後まで諦めない精神はとても素晴らしいと思いました。
マスター
グソクムシャGX+ダストダス 対 サーナイトGX
強力な特性を持ったポケモンが多い環境であることからダストダスの特性「ダストオキシン」を活用したデッキが優勝すると予想していたので、決勝で使用されているのを見て、とてもうれしかったです。
試合内容は一進一退の激しい攻防の末サーナイトGXが勝ちましたが、もう一度対戦したら勝敗がひっくり返ってもおかしくないほどの接戦でした。
グソクムシャGX+ダストダスデッキは、しっかりと特性を止めながらNを使って相手を追い詰めていましたが、サーナイトGXデッキ側がうまくフィールドブロアーを使い、特性のロックを解除できたのが決め手となっていました。
ポケモンWCSは世界の頂点を決定する大会ということで、参加されている選手のみなさんの本気度がとても高く、普段より「競技」を見ている感覚が強かったのが印象的でした。そして、世界中の猛者の頂点に立った優勝者たちのプレイングの上手さや思考の深さは本当に尊敬できるもので、大きな刺激になりました。
このように世界のみなさんに遊ばれるものを自分が作れていることを改めて実感しつつ、ポケモンカードゲームが、もっと熱中していただけるようなゲームになるよう、今まで以上に頑張って開発し続けていこうと思います!