数々のゲームやアプリ、WEBコンテンツでサウンド制作をおこなってきたクリーチャーズのサウンドチームがお送りする『使える』サウンド講習。作曲の流れや工夫についてお伝えした前回に続いて、今回は現場で実際に使われるサウンドのTipsをお届けします。
プロが実際に現場で使ったTipsを紹介
ゲーム開発部でサウンドデザイナー(※注)
今回は普段から私がよく使う、Steinberg社の『Cubase』というソフトをベースにお話しさせていただきます。
※注
「サウンドデザイナー」の仕事内容などについてはコチラの記事をご覧ください。
<サウンドデザイナー 伊藤歩 パーソナルインタビュー(前編)>
Tips①:サンプル素材はリージョン単位でコントロール
これはメリハリのついた曲を作りやすくするためのTipsです。
例えば、リズムのサンプル素材の多くは4小節〜8小節単位で収録されています。それをそのままベタ貼りするのは一番楽ですが、誰にでもできてしまうため楽曲のオリジナリティが生まれにくくなります。しかも工夫の余地が無いので、音の変化もありません。
しかし、リージョンを別にしておく事で、曲の流れによって個々にボリュームやミュート、長さ等を細かくコントロールする事ができ、曲が一定にならずメリハリを出す事が出来ます。
それでは実際の音源で比較してみましょう。
まず、リズムのKickとSnareのベタ貼りをしたバージョンが、Tips1_before_rhythm_01です。他の音色とミックスしたものがTips1_before_mix_01になります。
次に、リズムのKickとSnareの完成形バージョンが、Tips1_after_rhythm_01です。他の音色とミックスしたものがTips1_after_mix_01になります。
比較すると、ベタ貼りバージョンはKickとSnareが他の音色に埋もれてしまっており、ダンスミュージックの良さが失われています。しかも、ありものの素材を貼っただけなので、リズムが一定になってしまっています。
一方、完成形バージョンは、リズムを各リージョンでコントロールしています。そしてCOMPとEQをかけて整えたことで、メリハリが生まれ、リズム帯がすっきりしてタイトな印象になった事がわかると思います。
Tips②:異なるジャンルの素材を組み合わせる
ジャンルの体裁はもちろん大事ですが、そのジャンルに縛られすぎない事も大事です。
「あるジャンルで制作しよう」と決めたとき、体裁を押さえつつも、他のジャンルの素材との組み合わせを試してみましょう。そうすることで、単一のジャンルでは出すことができないグルーヴが生まれ、オリジナリティを出すことができます。ただし、ジャンルの「合う」「合わない」という感覚は、どうしても個人のセンスに依存するため、トライ&エラーが大事だと思います。自分がしっくりくる組み合わせを、根気よく探してみましょう。
それでは「Ayumingo」のビルドアップの個所を例に説明していきます。
作成前は、クラップの刻みにEDMで使われるような低音のHIT音に加え、下降音と上昇音といった構成です。このままEDM系の素材でまとめてしまうのもアリだとは思いますが、この曲の全体の流れを考えるとイメージが違ってきてしまうため、以下のような組み合わせを試してみました。
シンプルなワンコードのギターに、パーカッションを加えています。
こうすることで、この曲の持つエスニック感とEDM系の素材がマッチし、全体の流れに馴染んだのではないかと思っています。もちろん、これだけが正解ではないと思いますし、もしかしたら他の組み合わせもあるかもしれません。やはりここは根気強く探してみることが大事です。
また素材を探す時は、単体で試聴するのではなく、他の音色と合わせながら選ぶ事が大切です。
単体の素材がいくら良くても、実際にハメてみると合わないケースも多々あるので、シーケンサーを再生しながらトライ&エラーしてみましょう。
ちなみにCubaseの場合はMedia Bayを活用すると、素材がプロジェクトのテンポに追従してくれるので便利です。
Tips③:音の「引き算」・「隙間とミュート」
盛り上げるためには、音を重ねる事(足し算)も有効ですが、個人的には音を間引く事(引き算)も重要と考えています。音を重ねていくと盛り上がっているように聞こえますが、重ねすぎると実際には飽和してしまい、ゴチャついている印象を受けることも少なくありません。
このような時は、思い切って音を「引き算」してみましょう。無駄な音が排除され、ゴチャゴチャした感じが解消できることがあります。また引き算に加え、音をミュートして隙間を作ることも大事です。音の谷間を作ることで、リスナーがハッとする意外性を演出することができ、曲に変化が生まれます。
具体的には以下の通りです。
これが引き算をする前の素材です。最後のサビということもあり、多数の素材が鳴っています。こうすると確かに豪華なように感じますが、素材が多すぎて互いの音が殺し合ってしまっています。これを解決したいときは、音の優先順位を考えながら引き算をしてみましょう。
比較すると質素に感じるかもしれませんが、引き算したことで音の分離がよくなり、各素材が引き立ってくる事がわかると思います。作った側はどの音が鳴っている事が把握できますが、初めて聴くリスナーはそういうわけにいきません。聴いて欲しい音を引き立たせることで、リスナーがその音を自然と聴いていくように誘導することもできます。
この作業をする際にも、Tips①で紹介したリージョン単位でコントロールしておくと、トラックのミュートボタンを使わずに、リージョン単位でオンオフが出来るので非常に便利です。
また、ビルドアップから29小節目の4拍目で全ての音をミュートし隙間を作りました。
なぜ隙間を作ったかというと、ビルドアップから最後のサビまで隙間なく一定に流れてしまうと、最後のサビの印象が薄れてしまうと感じたからです。隙間を作ることで「最後のサビが来た!」という流れをしっかり演出しています。
繰り返しの音楽ほど、ここぞという時に隙間を作ってあげることで、次への流れを効果的に演出することができます。
Tips④:ミックス作業と作曲を同時に進行
作業工程でも個人的なTipsがあります。それはミックス作業です。
ミックス作業は作曲後の別工程という方も多いと思いますが、私はエンジニアではないので、作曲しながら同時進行で進めています。理由は「常に完成形をイメージして作業を進めたい」という所にあります。作曲後に別工程として作業すると、COMPを掛けて音の印象が変わったとか、イメージが変わりすぎてしまうということが考えられます。なので、作曲段階でCOMPを掛け、EQでいらない所はばっさりカットしておきます。こうしておくと完成形が見え、ゴールが近いように感じられるので、作業のモチベーションを保つこともできます。

使用頻度の高いプラグインはCOMP、EQ、STEREOIMAGER、REVERB、DELAY。
これらは個人的にマストなプラグインで、初期段階から各チャンネルに立ち上げています。COMP、EQは必ず使用し、STEREOIMAGER、REVERB、DELAY、その他必要なプラグインは音色によって判断しプラスしていきます。これらを使って全体のバランスを整えながら、作曲と同時進行で作業を進めています。
いかがでしたでしょうか。
今回は「Ayumingo」を例に挙げたので、ご紹介したようなTipsになりましたが、曲が変わればまた違ったTipsがあります。今後も皆さんの楽曲制作に役立つ情報をお届けしていきますので、お楽しみに!