株式会社クリーチャーズに所属する各スタッフをインタビューする「パーソナルインタビュー」。第2回となる今回は、開発3部サウンドチームで「サウンドデザイナー」として活躍する伊藤歩をフィーチャー。
そもそもゲームにおけるサウンドデザインとは、ゲーム全体のテーマと演出を明確かつスムーズに繋ぎ合わせる構成要素のひとつである。
音を仕事にしているサウンドデザイナーならではの、普段の生活における音に対する接し方、そしてサウンドデザイナーという仕事に必要な適性についても語ってもらった。
前編:サウンドデザインとはゲームにおける音全体を設計すること
後編:全体を俯瞰する能力も大事だけれど、それも個性があってこそ
全体を俯瞰する能力も大事だけれど、それも個性があってこそ
—サウンドデザインとは、まさにゲームの持つ世界観やテーマを、音で構築していくということだと理解できました。では、ゲームにおける「音(効果音など)」そのものと、「楽曲(BGMなど)」の違いは、どのようにとらえているのでしょう?
伊藤: 効果音そのものが演出のひとつであり、さらにゲーム全体の演出を高めるのが楽曲であるととらえています。あえて極端に言えば、喜怒哀楽などの感情を、よりわかりやすくユーザーに伝えてあげるのが、曲の持つ役割だと思います。それに対して、効果音だったら、ユーザーにインパクトを与えるような、より感覚的なものを伝えられる要素だと思います。
もちろんどちらの方が重要っていうのはない。シーンによって、あえて無音にするケースもありますし、このシーンではしっかり音を聴かせた方がいいと判断した場合は、より曲そのものを浮かび上がらせることを意識します。仮にその曲が単体では優れていても、シーンの前後関係によってはまったく印象が異なる場合もあるので、演出上ふさわしくないと思ったら躊躇なくリテイクする必要がありますよね。シーンによっては、BGMが加わることでより何かを伝えられる場合もあれば、あえて曲を乗せずに、いわゆる環境音だけで演出することで表現できるものもあります。
ただ気をつけたいのは、画と音がお互いに干渉することで、効果の潰し合いになってしまうことですね。その辺りは、常にフラットな感覚でディレクションとデザインをしているつもりです。
—それこそ職業病ではありませんが、プライベートでも、映画やテレビや映画を観ているとき、あるいは音楽を聴いているとき、つい無意識にそのような感覚で音に集中してしまったりしますか?
伊藤: それはあります(笑)。ゲームはもちろん、映画やドラマの効果音やサウンドトラックが、“どのタイミングで入ってくるんだろう?”って考えながら観ちゃったりします。その曲の善し悪しは別として、シーンに対してどう入ってきて、どこで抜けるんだろうって。それがフェードインで入ってくるのか、カットインで入ってくるかでまったく変わりますし。常日頃から音の居場所は意識してしまいますね。 そのとき一緒に映画などを観ているのが音に詳しい人だったら、“ココってコレでいいと思う?”みたいに、つい意見を求めたりもしてしまいます。
—作品以外でも、普段の日常生活で、音に関して気になることや、興味があることは?
伊藤: 職業柄、生活音や環境音も、どうしても意識してしまいます。通勤の際は、電車でも街中でも、あえてイヤフォンなどは着けないようにしています。そうすることで、“いろんな雑音があるな”って改めて実感できるんですね。電車内の人の咳払いや、雑踏における環境音や、もろもろの生活音とか…。まあ、仕事に役立っているかはわかりませんが(苦笑)、そういった音に耳を傾けるが好きです。車を運転するときも、あえてラジオや音楽を流さないように意識するときもあるし、そういう場合はタイヤと路面が生み出すロードノイズを聴いたり…。
また、少し前には、海外出張に行ったスタッフがいたので、いろいろな場所で音を録ってきてもらいました。そういった、国内とは少し違う街中の音を凝縮させて、別でサンプリングした環境音と混ぜるとか、本番では使用しなくても、実験のような感覚で試したりはしますね。
これは完全に趣味なのですが、オンラインの音楽プラットフォームであるSoundCloud(※注6)にアップするために楽曲をリミックスする際も、あえて仕事で使用するPCの音響制作では使わないようなプラグインを、自分のリミックスでテストしてみたりとか。普段からそういった音に対する新しいアプローチはしているかもしれませんね。
※注6 SoundCloud
誰でも簡単にネットにアップできる音楽共有クラウドサービス。
—ではゲームのサウンドデザイナーというお仕事に必要な資質とは?
伊藤: 重複しますけど、やっぱり全体を見渡せる能力は必須だと思います。作品全体の世界観を理解するのも大事ですし、制作工程全体を考慮した上で、個別の作業を調整していくのも必要です。特にサウンドデザインに限ったことではないかもしれませんが、そもそもゲーム作りがそのようなチーム制で成り立っている仕事ですから。
自分に置き換えると、ハッキリ言い切れるのがエースで4番ではないということですね(笑)。それぞれの構成要素をスムーズに繋げていくために、みんなが手をかけない部分をあえて補うようなやり方が、自分の性に合っているのかなって思います。
でもクリーチャーズという会社に入って、この仕事を始めた頃は、やっぱりいちクリエイターとして自分ならではの曲を作りたいっていう気持ちのほうが強かったと思うんです。“このシーンを盛り上げるようなサウンドを全開で作りたい!”って思っていました。
ただ、やっぱり単体のクリエイターという意識から、全体のデザインやディレクションをするという立場に変わっていくと、我が強すぎても、周りが混乱するだろうし、ときに作業を妨げるケースも出てきます。個性的でありながら、どこかで引くところは引いて、スタッフ全体により多くの選択肢を与えてあげるという意識は必要かと思います。
—サウンドデザインという仕事においては、クリエイティブとディレクションというそれぞれの要素のバランスが大切ということでしょうか?
伊藤:さっきのお話と矛盾するかもしれませんが、この仕事を志すからには、やっぱりクリエイティブにおいては、一癖二癖あるほうがいいんです。全体を俯瞰する能力も大事ですが、それはあくまで大前提であり、そもそも自分ならではの個性があってこそ活きてくる能力だと思っています。
それこそクリーチャーズの場合は、いい意味でいろんな個性を受け入れやすいというか。僕はあまり過去のゲームについて詳しいわけではないですが、同じチームの後輩は、“ゲームのサウンドクリエイターになりたい!”って明確なモチベーションで入社してきましたし、さらに僕の先輩ともなると、バリバリの音大卒で、音楽理論はすべて頭の中に入っているようなタイプです。そもそも社長の田中(宏和)(※注7)自身は無類のレゲエ好きであったりと、みんなルーツは違うけど、こうしてひとつの会社に所属して、チームとして仕事をできているわけですからね。
注7 田中宏和
株式会社クリーチャーズの代表取締役社長。詳しい経歴等は過去の対談記事をご覧ください。
語り継がれる名作『MOTHER』からの25年 鈴木慶一×田中宏和
大ヒットする作品の意外な共通点 田中宏和×DE DE MOUSE対談
—では最後に、サウンドデザイナーを志している人、あるいはこのインタビューで、サウンドデザインに興味を持ってくれた方に、伝えたいことがあればぜひ。
伊藤: 僕自身ずっと言われてきたのが、“いろんなものに興味を持ちなさい”ということでした。音に関してだったら、さっきお話したような、ゲーム以外の作品が持つサウンドデザインの構造を考えてみるとか、それ以外でも、異なる文化を持つ国に旅行をして、その土地ならではの音に触れることも大事です。
音楽に絞るならば、ジャンルの食わず嫌いはないほうがいいと思います。自分のなかでベストな音楽ジャンルはあると思いますが、普段からたくさんの音楽を聴いていることで、行き詰まったときに、そこを抜け出すきっかけにもなります。すべてのジャンルを網羅するのは不可能ですが、どんなジャンルにもテンプレートとなる特徴はある。だから、それらを幅広く知っておくだけでも、自分のオリジナルを作る際に、意外な組み合わせで面白いものができるんじゃないかなって思っています。
僕自身への戒めも含めてですが、やっぱり固定観念には縛られないようにしたいですね。さらに “これだけは負けない”ってものを身につけることができたら大きな強みになるのではないでしょうか。持ち球は多いに越したことはない。それこそ最初はボール球でもいいと思うんです。いろんな球を投げ続けて、最終的に作品全体の持つ絶妙なストライクゾーンを見つけ出すことこそが、サウンドデザインという仕事なんじゃないかなって思っているんです(笑)。
インタビュー:助川貴
- 前編:サウンドデザインとはゲームにおける音全体を設計すること
- 後編:全体を俯瞰する能力も大事だけれど、それも個性があってこそ
伊藤 歩(いとうあゆむ)
1980年5月4日生まれ。千葉県船橋市出身。現在は株式会社クリーチャーズの開発3部サウンドチームに所属。サウンドクリエイターとしてゲームサウンドの制作にあたり、現在はチームのマネージャー及びサウンドデザイナーを担う。直近ではニンテンドー3DSソフト「名探偵ピカチュウ ~新コンビ誕生~」の開発に携わる。音楽系の短大の音楽情報学科を卒業後、結婚式場の披露宴の音響仕事を経て、2004年にクリーチャーズへ入社。趣味は野球観戦と旅行。大のヤクルトファンとして、試合自体を観戦するのと同時に、観客の歓声、ウグイス嬢のアナウンス、応援団のトランペットの音色…etc.など、神宮球場全体が生み出すサウンドを全身で体感できるのが、野球観戦にハマったきっかけとのこと。