JUNE 10, 2016

ポケモンカードゲームがギネス作品に!
巨大モザイクアートを視察
~ポケモンカードゲームディレクター長島の仕事【出張編】~

はじめまして。ポケモンカードゲームディレクターの長島です。

僕の仕事は肩書通り、ポケモンカードゲームをつくることです。しかし、「カードゲームをつくる」といっても、実際に何をやっているのかイマイチわかりませんよね。

そこで今回から、カードゲーム開発の現場の様子を、こちらの記事で紹介していきたいと思います。

巨大モザイクアートを見に、はるばるパリへ

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普段は会社にこもって商品企画やデータ開発と格闘してばかりいる僕ですが、イベント視察や海外ミーティングのために、出張に行くこともしばしばあります。

先日はなんと、ポケモンカードゲームを使った巨大モザイクアートがギネス世界記録に認定された!ということで、フランス・パリでの視察に招待していただきました。

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nagashima01_03左から、北野祐司(クリーチャーズ ポケモンカードゲーム開発プロデューサー)/Quentin Devine氏(モザイクアーティスト)/長島敦(クリーチャーズ ポケモンカードゲームディレクター)

作品はパリ市内のギャラリーに展示されていました。体育館のような広いホールに入った瞬間、巨大なピカチュウのカードが目に飛び込んできます。確かに大きい! さすが、ギネス記録に認定された世界一の大きさですね。

どれくらい大きいのか横に立って記念撮影をしてみました。ヨコ約7m、タテ約10m、面積が約70平方mというサイズです。

そして、使われたカードはなんと12987枚! 枚数もケタ違いです。

つくったのは、モザイクアーティストとして世界で活躍するQuentin Devine氏。
実はこの作品は、2016年のポケモン20周年を祝うプロモーションの一環としてつくられたものなんです。海外のポケモンのプロデュースを一手におこなっているThe Pokémon Company Internationalの働きかけで、Devineさんが巨大モザイクアートでギネスに挑戦し、みごと「トレーディングカードを使った最も大きなモザイクアート」として、ギネスに認定されたというわけです。

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デザインの元になったのは、ゲームフリーク・杉森建さんのピカチュウが描かれているこのカード。日本国内では、ポケモンカードゲームBW「はじめてセット全国図鑑版」に収録されています。

そもそも“ギネス”って?

日本ではよく「ギネスブック」と呼ばれるのが、世界一の記録を集めて記した「ギネス世界記録」という本です。この本を発行しているギネスワールドレコーズ社が世界一と認めたものが、公式の世界一認定記録とされ、「ギネス世界記録」に掲載されます。

緻密に計算された配置と、高い再現性

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いったいどうやってつくっているのか、Devineさんに聞いてみました。

デザインの設計は、パソコン上でカードの画像を1枚1枚並べてみて、使うカードを選んでいくということです。カード1枚のなかでも、イラスト部分とワザの部分では色や密度が違うので、わざと上下を逆にしている部分もあるそうです。
近寄って見てみると、カードの上下がバラバラに置かれているのがわかります。イラストの密度が高いカードを連続して並べている部分は、まっすぐな線が表現されています。逆に、色差の少ないカードを並べると、ゆるやかなグラデーションに見えます。

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こうしてパソコン上ですべてのカードの配置を決めて、実物のカードを並べていきます。遠くから見ると、完成度の高さにあらためて驚きます!
ワザを使うのに必要なエネルギーや、図鑑テキストのフレームなど、細かいパーツも忠実に再現されています。さらに、注目していただきたいのが文字。ワザ名の「Pika Punch(ピカパンチ)」や「Double Voltage(ダブルボルテージ)」も、しっかり読み取ることができるんです。
実際のカードは、背景の黄色い部分にグラデーションの模様が入っているのですが、その微妙な色のゆらぎも再現されています。

Devineさんの作業風景はyoutubeでも公開されているので、ぜひ見てみてくださいね。
https://www.youtube.com/watch?v=ba_EkwkngGU

カード開発と、モザイクアートづくりの共通点

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Devineさんのクリエイティブのお話をうかがって、ポケモンカードゲームの開発と共通する部分を多く感じました。モザイクアートは、全体の仕上がりを俯瞰でとらえると同時に、細部の調整を緻密におこなっています。

ポケモンカードゲームの制作も、少なくとも1年間の大きな流れを想定しながら、登場させるポケモンやゲーム環境を設計します。商品が発売される時期を考慮し、その時のメタゲーム(※)の環境やゲーム難易度などを考えていきます。それに合わせ、先々までのポケモンの構成を細かく設定し、新ロジックを投入していきます。

(※)メタゲームとは、マジック:ザ・ギャザリングから発生した言葉です。大会に出場する際、流行しているデッキやそれに対抗するデッキなどの参戦デッキを予想し、いかに自分の勝率を上げるか、戦略を練ることです。開発の段階では、いくつものデッキが拮抗する勢力図になるように設計します。そして上級プレイヤーが出場する大会では、メタゲームを制する人が大会を制するという環境ができあがるのです。

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ポケモンカードゲームXYシリーズの序盤では、BWシリーズから主流となっていたポケモンEXの強さを継続。さらに M進化(メガシンカ)を登場させ、中盤で刺激と遊びの要素を最大化。そして終盤、ポケモンEXやM進化(メガシンカ)に対抗するBREAK進化が加わったことで、デッキが多様化するという潮流をつくりました。

制約もたくさんあります。モザイクアートは、「ここを真っ黒にしたい」と思っても、ポケモンカードにはデザインが入っているので真っ黒いカードはありません。その限られたなかで表現したい絵柄をどう再現するか、今あるポケモンカードでなんとかするしかありません。

ポケモンカードゲームも、多くの制約のなかでつくられています。
ポケモンそれぞれのキャラクター性に合った能力をつけるのは必須で、それを踏まえた上で、さまざまなデッキがつくれるようにカードに多様性を持たせていきます。ただしワザのテキストはなるべく短くわかりやすく。さらに、構築してきたメタ環境も守りながらも、新しく移行させていく必要もあります。
ただ強いロジックをつくるだけでは、遊びそのものがつまらなくなり、対戦ゲームとして成り立たなくなってしまいます。

また、TCGならではの面白さも取り入れています。少し古いカードも、ゲーム環境の変化によって再び活躍できたり、ビデオゲームでは目立たないポケモンも、カードではエースになれる、といった要素は、常に意識しています。

文字を増やし、ワザを複雑化していけばやれることは増えますが、ライトプレイヤーはついてこられなくなってしまいます。誰でも遊べるシンプルさを維持しつつも、本気で遊びたい人が満足できる奥深いゲーム性を保つにはどうしたらいいかが、開発で最も悩むところです。

このように、守るべきことは守りつつ、全体と細部を同時に構築していくという点で、モザイクアートのクリエイティブはとても勉強になりました。

モザイクアートに見た、ポケモンカードゲームの無限の可能性

今回の視察で感動したことはもうひとつあります。
開発する立場として僕は当然、できるだけたくさんの人にポケモンカードゲームを知ってほしい、楽しんでほしいと願っているわけですが、Devineさんはモザイクアートという斬新な手法で、ポケモンカードゲームの新たな可能性を見せてくれました。
この巨大モザイクアートなら、ポケモンやポケモンカードゲームを知らない人でも「すごい!」「おもしろい!」と感動できます。対戦やコレクションをしなくても、ポケモンカードゲームで「楽しい」という体験ができるのです。さらに、“ギネス登録”という話題性も同時に提供しています。これは発明ですよね。

ポケモンカードゲームには無限の可能性がある、まだまだいろいろな遊びをつくりだせる、そう実感させていただくことができました。

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当日は、ヨーロッパの有名ブロガーさんたちも見学におとずれていました。

ヨーロッパメディアからの取材を受けて、視察終了

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現地では、フランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパ各国のメディアの方から取材も受けました。webニュースや子供向け雑誌の方など、さまざまでした。記者の方からは、好きなポケモンから、アートのつくりかた、データ開発のしかた、20年続くデータづくりの秘訣まで多岐に渡る質問を受け、ポケモンカードゲームへの関心の高さがうかがえました。
(データづくりの秘訣などは、後々こちらの記事でお話していこうと思います。)

また、ヨーロッパではポケモンが文化として根付いていて、子供が成長過程でかならず触れるコンテンツになっている、ということを教えていただきました。そんなお話を聞くと、身の引き締まる思いがします。

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空いた時間で、少しだけパリ散歩をすることができました。
有名なランドマークが立ち並ぶ町並みは、あいにくの曇り空でも美しい。

蚤の市は古着から家具から美術品まで、あらゆるものがぎっしりと並べて売られていて、まさに玉石混合の宝の山でした。

そして、宮殿のようなゴージャスなレストラン。フランスでは、食事がすべておいしくて、エールフランスの機内食までもが美味でした。さすが美食の国ですね。

この、文化も人種もまったく異なる世界の人々に、これからもポケモンカードゲームを楽しんでもらうにはどうしたらいいか。大きな課題と夢が生まれました。
そして、この素晴らしい機会を与えていただけたこと、とてもありがたく思います。ここで得たことを糧に、引き続きカード開発に勤しみます。

それでは、今回はこのへんで失礼します。
最後まで読んでくださってありがとうございました。

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