AUGUST 1, 2016

【みんなのうた ねこの兵士がゆく】若手CGデザイナーが語る、クリーチャーズの仕事の”裏側”

50年以上続くNHKの音楽番組『みんなのうた』。その番組の名を聞けば、子ども時代に耳にした曲が誰しも頭に浮かぶだろう。国民的長寿番組で、2016年4月に放送された『ねこの兵士がゆく』のアニメーションを作ったのは、同年2月に発売した『名探偵ピカチュウ 〜新コンビ誕生〜』(以下『名探偵ピカチュウ』)を担当したクリーチャーズの若手CGデザイナーたちだった。全編3DCGのミュージックビデオの制作の裏側を、彼らの視点で語ってもらった。

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金子論(奥右)/阿部香織(手前右)/相馬明子(手前左)/岡田麻理恵(奥左)

NHKみんなのうた「ねこの兵士がゆく」2016年8月・9月放送予定はこちら
http://www.nhk.or.jp/minna/special/request/index.html

「ねこの兵士がゆく」の作品紹介

うた:森 楓
作詞・作曲:福本雄木
アニメ:クリーチャーズ

気ままで、勝手で、わがままで、でも憎めない猫。やんちゃな猫は家族の見ていない間に部屋を散らかしてしまいます。見つかると部屋を追い出されてしまうのですが、しばらくするとまた騒ぎ始めます。飼い主はその傍若無人さにあきれ果てるのですが、その一つ一つの動きに可愛らしさを感じているのですから困ったものです。猫好きが、「ウン!ウン!」と妙に納得してしまう楽しい曲に仕上げました。歌うのは、現役の専門学校生です。

※NHK「みんなのうた」公式サイトより

【スタッフ紹介】

金子論(かねこ ろん):開発2部 CGチーム/Jr.アーティスト/2015年入社。専攻はグラフィックデザイン(タイポグラフィ)。神宮球場が近いためか、社内にはヤクルトファンが多いなか、数少ない生粋のベイスターズファン。最も好きな選手は梶谷隆幸。『ねこの兵士がゆく』のキャラクターデザインとモーションを担当。

阿部香織(あべ かおり):開発2部 CGチーム/アーティスト/2013年入社。専攻はグラフィックデザイン。ゲームUIの設計などを担当したのち、現在はモーションチームへ。卒業制作では2Dアニメーションを制作。そのとき身についたスキルは3Dモーション作りでも生きていると語る。

相馬明子(そうま あきこ):開発2部 CGチーム/アーティスト/2013年入社。専攻は日本画。学生時代に学んだデッサン力や空間の把握方法、陰影の付け方は3D制作にも直結するスキルと語る。自宅でともに暮らす猫の名は「あんこ」。世界最大のゲームショウ「E3」チェックは欠かさない。

岡田麻理恵(おかだ まりえ):開発2部 CGチーム/Jr.アーティスト/2015年入社。専攻は漆芸。漆を使った立体造形を手がけ、手のひらサイズのものから、大きいものでは横3mものサイズになる作品も。モデラーとして小物のモデリングやキャラクターの表情を生み出す仕事を担当している。

※所属・肩書は2016年6月のものです

『ねこの兵士がゆく』映像作りの始まりと、放映の瞬間

ー『ねこの兵士がゆく』の映像を作ることになったときの印象は?

阿部:最初のころは、ゴールがはっきりと見えないという不安があったのを覚えています。ポケモン関連のゲームのときには、新しい作品でも過去のポケモンのデータやルールといった蓄積があって、多少の足がかりはありましたが、今回はそれがゼロ。あと、自分の実力が足りるかという不安もありました。

金子:まだ入社1年目で、『名探偵ピカチュウ』でピカチュウのモーション制作を担当した程度しか実績がありませんでした。しかも学生時代はタイポグラフィが専攻で映像の経験もない。「どうやって作り上げていけばいいんだろう?」と思いながら話を聞いていたら、「CGじゃなくても、クレイアニメでもなんでもいい」と言われて、もっと分からなくなってましたね(笑)。

相馬:最初は『ねこの兵士がゆく』の歌を聞いて、曲からイメージする猫のデザインを、各人で作るところから始まりました。それぞれが考える、猫のキャラクター案を出しました。飼い主が留守の間に部屋を散らかしてしまうんだけど、そんないたずらも含めて飼い主に愛されているメス猫の歌で、自宅で飼っているのもメス猫でしたから、それを元に、ちょっと細めで生意気そうな猫をデザインしました。

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相馬によるキャラクターデザイン案の一部

岡田:私がモデルにしたのは、友人が大切に飼っていた茶トラ柄の猫や、親戚の家にいた遊び盛りでやんちゃなメスの子猫でした。その猫に触れた感触や見た目を元に、かわいらしい兵士にしました。歌詞の猫のセリフが「〜のよ」だったから、メスの猫はモデルにピッタリだと思ったんです。

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岡田によるキャラクターデザイン案の一部

阿部:私は、初めはハチワレの白黒猫のイメージを中心にいろいろと描いて、そのあとグレーのロシアンブルーでしたね。

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阿部によるキャラクターデザイン案の一部

金子:みんな、元になった猫がいるんですね。僕がイメージしたのは映画『猫の恩返し』のムタさんのような、どっしりとした猫でした。『ねこの兵士がゆく』というタイトルにも、かわいらしい歌詞やテンポの印象にも、そのほうが合うんじゃないかと思って。毛足を長くすると重量感のあるふっくらとした見た目になるかな…と、ヒマラヤンにしました。ちょうど『名探偵ピカチュウ』のプロジェクトが終わったあとで、メンバーの気分が和らいだときだったので、ちょっと和気あいあいとみんなで猫を描いてましたね。最終的に、そのヒマラヤンが番組プロデューサーの方にも好評で、それが「ねこの兵士」になりました。

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金子によるキャラクターデザイン案。最終的にこのデザインが採用された。

ー試行錯誤したところや、見てもらいたいところは?

相馬:一番苦労したのは、「ねこの兵士」の中身のモデル作りでした。時間の制約のあるなかで分担してモーションをつけるため、1体のモデルにみんなでモーションをつけていきます。そのため、大元となるモデルには精密さが求められました。変なところがないか先輩にも細かくチェックしてもらいながら作ったので、大変でしたね。担当したモーションのなかでは、飼い主に抱かれている猫の動きはよくできたなと思います。抱かれながら、飼い主に向かってまばたきをしたり、甘えるように首を動かしたりするモーションをつけるときは、うちの猫を想像しながら作っていました。また、ムービーの最後で、猫が部屋のなかを歩き回るシーンでは、かわいらしさに加えて、傍若無人な感じとか、ネズミのオモチャにいたずらをしたあとにちょっととぼけたように首をかしげる、猫らしい動きを入れました。あとで見たときにも、あの動きは「加えてよかった!」と思いました。

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※画像は制作途中のものです

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※画像は制作途中のものです

阿部:この仕事で、ライティングを初めて担当しました。同じ部屋のなかでも、玄関とリビングとでは雰囲気が違うので、色味やライトの当て方を変えてその差が感じられるようにしています。あと、時間帯も意識しました。ペットの「ねこの兵士」が、飼い主の女性の留守中に部屋のなかでいたずらをするストーリーだから、仕事で家を空ける朝方から、帰宅する夕方までの時間経過があるはずですよね。それを意識して、朝方と夕方とで当てる光の色味も変えています。分かりづらいところなので、作品を見た人のなかで何人に気付いてもらえるかは分かりませんが、その違いに気付いてくれる人がいたらうれしいです。

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※画像は制作途中のものです

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※画像は制作途中のものです

金子:今回は主役「ねこの兵士」のキャラクター作りを担当していましたから、もちろん猫に注目してもらえたらと思いました。NHK出版から発行される『みんなのうた』で紹介された楽曲や歌詞が掲載された雑誌があって、実は、放映があった月の号の表紙を飾ったのが「ねこの兵士」でした。その絵は僕が描き下ろしたもので、原案に近い形なんです。平面の「ねこの兵士」の絵と一緒に「みんなのうた」の放送で3D化された「ねこの兵士」を、見比べてくれた人がいたらいいなと思いました。

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NHKテキスト『みんなのうた』2016年4・5月号

金子:試行錯誤を繰り返しながらも「これじゃ、まったく猫らしく見えない!」という指摘が何度も繰り返されて、その問題点を少しずつクリアにしながら作っていったので、時間はかなりかかりました。そのうちに「これでダメではないが、もっといい方法があるんじゃないか?」と、マインドも変わってきて、ある瞬間を境に急にできがよくなったという経験が印象的でした。

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※画像は制作途中のものです

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※画像は制作途中のものです

 

岡田:猫が飼い主の気を引くために、トイレのなかでトイレットペーパーにパンチをする、6秒ほどの長いシーンがあったんです。猫パンチのモーションができあがってから、猫の前脚が当たるのに合わせて紙を一緒に動かすようにしつつ、薄くて軽いペーパーが猫パンチによってどう動くのかを意識して、実際に猫が遊んでいるように見えるように、細かい調整を重ねました。背景として部屋全体の作成とモーション付けをおこなったなかで、特に気を使ったのはそこですね。動きによってトイレットペーパーの質感も出るように気を配りました。猫の動きと、それに絡むアイテムの動きでは、コーヒーカップを前脚でいじって落とすシーンでも、物体の重さが表現できるように気をつけて作りましたね。あとは、曲とのシンクロ。ペーパーの動きやカップが落ちるタイミングを、テンポに合わせるのが大変でした。

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※画像は制作途中のものです

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※画像は制作途中のものです

ーテレビ放映を見た瞬間を覚えていますか?

相馬:会社で見ました。「本当に全国ネットで流れてる(笑)」って。みんなで作っていたことは、会社のみんなも知っていたので、テレビで流れているのを見ていたら、拍手がおこりました。

金子:不思議な気分でしたね。何度も制作中に見ていた動画だったけど、テレビで見るとまったく違った気分で。

岡田:誰もが、「みんなのうた」の番組名を聞いたら、思い出して口ずさめる曲がありますよね。私たち4人も同じで、それくらい身近で、子どものころから知っている番組ですから、そんな番組に関われたのはうれしかったです。

クリーチャーズに向いているのは”変な人”!?

ークリーチャーズに来た理由

岡田:就職を考え始めた時期に、クリーチャーズの社長である田中がインタビューを受けた記事を目にしました。「得意なことは、みなそれぞれ違う。その得意なことをいちずにやっている人たちが集まっている」という話を読んで、クリーチャーズは面白い人がたくさんいそうな会社なんだなって感じたんです。その仕事が好きでやっている人が、たくさんいる空間だということが、よく伝わってきました。自分もそういう人の中で仕事がしたいと考えていたので、それが採用試験を受けるきっかけの一つになりましたね。

入社して、その一員になって慣れてくると、そのとき感じた印象と違うところにも目がいくようになりました。得意なことを仕事にするには、締めるところは締める、というか自分をしっかり律していかないとならないんだと。会社が取り扱っているものや情報には、細心の注意を払わなければならないものも多いです。特に「ポケモン」は世界のアイドルで、多くのファンから期待されているものですから、その期待を下回らないように、特に気を遣わなければなりません。子どもでも、期待以下か期待以上かはちゃんと気付くと思うんです。そういったところを内側から見ると、会社としての形を保つための努力もたくさんあるのだと知りました。

阿部:応募した一番の理由は、小さなころに遊んでいたクリーチャーズの『ちっちゃいエイリアン』というタイトルでした。ゲームボーイポケットの赤外線通信機能を使って、家電から出るいろんな光に近づけると「ちゃいリアン」を捕獲できて、それを集めて一緒に遊んだり、友達のちゃいリアンと交換したりするゲームです。画面のなかに向かって、独りでゲームをするだけではなくて、家中の家電の光を集めたり、それが一巡すると外に出掛けて光を探したりと、現実とゲームの世界がリンクする感覚がすごく楽しかったんですよね。

その経験が心に深く、思い出として残っていて、就職活動をしようとしたちょうどそのタイミングで募集があったから「これだ!」っていう感じで面接を受けました。面接のときは、『ちっちゃいエイリアン』の話を結構しましたね。ゲームのファンから、メーカーの社員になるのはどうなんだろう?という気持ちはあったものの、そのときの『ちっちゃいエイリアン』話は盛り上がりました(笑)。

相馬:小さいころから、ゲームは大好きでした。でも海外ゲームのほうに親しんでいて、日本のゲームメーカーはあまりイメージがわきませんでした。クリーチャーズは、HAL研究所と作っていた作品や阿部がハマっていた「ちっちゃいエイリアン」などを雑誌で見た記憶がある程度で…。でも、変わったゲームを作っている会社だなって印象があって「どうせなら、印象に残っている会社を受けよう」と、採用試験を受けたのがきっかけです。

変わっているというか、”王道”からあえて道を外したゲームが多いと思います。ピカチュウを操作してバトルアクションを楽しめる『ポケパークWii 〜ピカチュウの大冒険〜』とか、自分も制作にたずさわった『名探偵ピカチュウ』も。ピカチュウが探偵になって、パートナーのティムと事件や謎を捜査するストーリーで、いままでのポケモンのイメージからは外れているというか。また、今回の『ねこの兵士がゆく』の映像のようにゲーム以外も作れるのも魅力でした。ここに入れば他にはないものを作れるかなと思いました。

金子:ゲームボーイのポケモン1作目から最新作まで、バージョン違いも全部そろえています。そのポケモン好きを決定づけたのがニンテンドーゲームキューブの『ポケモンコロシアム』。3DCGのポケモンが自由に動かせて対戦できる、その迫力にハマりました。そのCGを作っていたのがクリーチャーズだったんです。つまりは、ポケモンが好きで入社を決めたタイプなんですが、何だか珍しい人みたいな空気ですね(笑)。

相馬の話にもありましたが『ポケパーク』のような、ポケモンの世界の”メインストリーム”ゲームだけではなく、新しい視点でポケモンの世界観を展開する方向性に興味があって、ポケモンの世界観を拡張するというか、もっとおもしろいことができるんじゃないかと思って、クリーチャーズに入社しました。

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ーどんな人と働きたい?

岡田:自分のやりたいことに対して、はっきりとしたイメージを持っていて、そのイメージを相手にうまく伝えられる能力や意志のある人が良いですね。私は、いま業務の上では、「こういうものを作ってほしい」というオーダーに応える仕事をしているので、「こういうもの」のビジョンがなるべくはっきり見えていると、こちらも作りやすいですし、それに刺激を受けて作る側としてのビジョンも広げられるような気がします。

阿部:振られた仕事をこなす、という形も多いとは思いますが、ただそれだけをこなすのではなく、より良くなる方向へ持って行こうとする気持ちがある人に、自分はなりたいと思っています。ありきたりな言い方ならば「向上心がある人」になるかもしれませんが、そういう気持ちのある人と、一緒に仕事ができたら、切磋琢磨できるのかなと思います。

相馬:そうですね…。まだはっきりとは思いつかないのですが、“王道じゃないもの”を作りたい人とは、楽しく仕事ができそうな気がします。クリーチャーズ社内の人なら、今回の『ねこの兵士がゆく』の映像ディレクターの柳沢と、また映像を作る仕事ができたらいいなと思いました。

金子:クリーチャーズに向いてる人は“変な人”。好きなことを突き詰めている人が、入りやすいんじゃないかなと思います。一緒に仕事をすることを考えると、自分が突き詰める思いの強さと同じくらい、他の人の思いを汲める人と仕事できたらなと思います。自分と他者との意見を客観的に見られるというと分かりやすいのかもしれません。

インタビュー:常山剛

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